前回に続き、シャネル銀座ビルディング10階にある、「シャネル(CHANEL)」とフレンチの巨匠「アラン・デュカス(Alain Ducasse)」とのコラボレーション・レストラン「ベージュ アラン・デュカス 東京(BEIGE ALAIN DUCASSE TOKYO)」にて。銀座の夜景を映すガラスに向かって広がる洗練のダイニング。
5m程ある天井高で開放的、遠くには東京タワーも見える。落とした照明の中各テーブルがぼんやりと浮かび、インテリアやテーブルクロスのベージュ・ツイード柄がエレガントだ。随所にシャネルマーク、スタッフの制服もシャネルのデザイナー、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が手掛けている。
トイレの入り口扉には、女性用はバッグ(シャネル・マトラッセ)が、男性用にはネクタイが掛けてある。石鹸も「シャネルNO.5」と言うのはさすがだろう。そう言えばおしぼりにも香水が含ませてあった。我が家は夫婦共にもう20年はシャネルの香水を愛用していて(今は「ブルー・ドゥ・シャネル」「ココ・ヌワール」)、石鹸も同様なので我が家的には落ち着く香りでもある。
さぁ段差上の落ち着く明るい席で、美食レポートの続きと行こう。まずはグラス・シャンパンの、「ルネ・ジョフロワ ロゼ・ド・セニエ・ブリュット プルミエ・クリュ」と「ポメリー キュヴェ・ルイーズ 2002」で乾杯し、その後改めて「ドゥーツ ブラン・ド・ブラン ブリュット 1988」をボトルで開けた。
ワイングラスに注がれたそれは、照明に黄金の泡が美しく輝く。蜜・洋梨のコンポートなどの穏やかで綺麗な熟成香、エレガントな飲みごたえだ。そこへ前菜2皿目の「蝦夷鮑のヴァプール、冬野菜」がやって来た。春にかけて旬を迎える「蝦夷鮑」に冬野菜を添えたプレ-トだ。帆立の貝柱をベースに魚、クレソンからとったソースで仕立ててある。鮑でソースを作ると黒くなるのであえて帆立貝を使用したという。
シェフお薦めコース「Menu du Chef」から選び、3皿が選べるコース「Collection」に追加してもらった1皿。前皿「野付産帆立貝とラディッキオのグリエ、ブロッコリーのソテー」に負けじと劣らない迫力だ。火を入れると縮んでしまう鮑をいかに美味しく提供するか、小島シェフが究極にこだわったそうだ。確かに吸い付くような柔らかさに続いて海のエキスが溶け出すような味わい。
爽やかな笑顔の山本知典プルミエ・メートル・ド・テルの話によると、京都「瓢亭」「菊乃井」「草喰なかひがし」「祇園 さゝ木」との交流の中から3時間蒸す事を学び、小島景シェフ的にも「3時間ポシェが一番美味しい!」と言う結論に至ったとの事。そんな何とも興味深い話に聞き入った。
面白いのは添えられた野菜が、小島シェフ十八番の鎌倉野菜ではなく「瓢亭」からの紹介で京都から仕入れている京野菜だと言う(笑) シンプルに茹でただけという長葱の甘さや里芋の滋味深さを周りに配置した、味わい深く食べ応えのある一皿であった。
次に登場したのは「オマール海老のポシェ、クルジュのロースト」。テーブルで香り立つビスクソースが注がれて完成する。ふっくらと美しく火の入ったオマール海老を、甲殻類の濃厚なソースで頂く黄金律の美味しさ。ズッキーニの収穫時期をずらして甘さを引き出したクルジェ。カボチャのような甘さがオマール海老の豊かな旨みに呼応し、ライスチップの食感と余韻がアクセントに収まる。
いかにも「オマール海老を食べた」と言う満足感に包まれる、満足の一皿であった。さぁここで赤ワインを楽しもう。ワインリストに見つけて思わず飛びついたのは、ボルドー・サンテステフ「シャトー・モンローズ(Chateau Montrose) 1970年」だ。
妻は最近またはまっている「シャトー・ラトゥール」を希望していたし、実際シャトー蔵出しのQRコード付きという1982年にも惹かれるが、なかなか珍しいこれを飲みたい欲求には勝てなかった(笑) メドック格付け第2級ながら、1級に劣らない「シャトー・モンローズ」は、実際「サン・テステフのラトゥール」と言われている(5Kmしか離れていない)。
1825年創設、現在はかのマルタン・ブイグ氏がオーナー。1970年代後半から造り方が変わるので、これはその前と言う事になり貴重だ。その昔ヒースの開花時に一面が薔薇色に染まる事から、モン(山)ローズ(薔薇)と名付けられたのだそう。カベルネソーヴィニョン65%・メルロー25%・カベルネフラン10%。
予想に反してまだレンガ色までいかず、茶色を帯びたガーネット。大塚ソムリエも「飲み頃はいつ来るんでしょうね~」と驚いている。アタックから中盤にかけて膨らんだ余韻が最後まで広がる。ドライイチジク・甘草・・ハーブの爽やかさ。枯れかけた葉や土だけでなく牧草の青さも残している。果実味やフレッシュな酸も残るなど、熟成感とのバランスが絶妙に取れていてなかなかの美味しさだ。
「これすごく美味しいじゃない!」とラトゥールをチョイスせず懐疑的だった妻も楽しんでいる。穏やかながらワイン愛に溢れる大塚信秀シェフ・ソムリエのワイン談義を聞きながら楽しめた。実はこの1970年は、ロバート・パーカーの「モンローズの最も偉大なヴィンテージ6」に入っている。
パーカー曰く「これを味わう喜びを知ったら、誰でもモンローズが『サンテステフのラトゥール』の名に恥じない、重々しいワイン生産してきたのは間違いないと認めるだろう」。ラトゥール同様に長期熟成向きだと言われるが、正にそれが実証できた1本であり、過去に飲んだ同「1970年(ムートン/マルゴー)など」の中でもトップクラスであった。
そこへ運ばれた来たのが、メインの「北海道オークリーフ牧場仔牛、トピナンブールのソテー カリンのマーマレード」。ジュのソースがテーブルで注がれる。フォークを入れるとスーと抵抗なく切れていく「乳飲6ヶ月の仔牛肉」。ある意味非常にシンプルな仕立てだが、素材の質と的確な調理に対する自信が滲む。
添えられたホクホクの菊芋も美味しい。そしてソープの旨みに付け合わせのカリンの旨みが重なる。ふんわりなミルキーな肉質に、わざわざ熟した「モンローズ」を合わせたかの様な絶妙なマリアージュになった(妻も拍手)。「モンローズ」もまだ残っていたので、ここで「フロマージュ」も頂こう。
メートルが抱えて来たのは14種類も並ぶトレイ。しかもチーズの熟成香がふんわり漂ってきて食欲をそそる。妻は蕩ける「シェーブル」、私は濃く熟した「コンテ」など食べ頃お勧めを頂き、ワインとじっくり味わえて満足する。そしてお待ちかねのデセールは、残しておいた「ドゥーツ」と楽しもう。
妻はやっぱりスペシャリテの「カレ・シャネル ショコラ-プラリネ、ヘーゼルナッツのアイスクリーム」を選んだ。シャネルとのコラボレストランらしく、デュカスの代表作「ショコラ・プラリネ」を「シャネル・マトラッセ」デザインにアレンジした物。一見してそれとわかる華やかさで、開店以来の定番。
山本メートル・ド・テルも言っていたが、何よりサクサクのプラリネ感と濃厚な甘さこそが美味い。ショコラ専門店「ル・ショコラ・アランデュカス・マニュファクチュール・ア・パリ」をオープンさせたデュカスグループならではの、フランスらしいショコラデザートだ。
一方私はこの季節ならではの「イチゴとアーモンドムースのサブレ」と迷ったが、結局ボリュミーな「リンゴのコンフィ、パッションフルーツ/キャラメル グラニースミスのソルベ」を選んだ。甘く爽やかな香りで、フレンチらしい美味しさを堪能できた。ハーブティーはやはりツイード柄のティーカップで。
ガラスのトレイには小菓子、シルバートレイにはシャネルボタン型「カメリア・ショコラ」が並ぶ。そうそう今年のバレンタインは伊勢丹新宿で、シャネルアイコンをモチーフとしたチョコレート(ブトン・シャネル/マカロン・ベージュ/カレ・シャネル/カメリア・ショコラ/マトラッセ)を限定販売したとの事。
商標登録の関係でそう簡単には登場しないから貴重だ。帰りにはいつもの様に、パステルカラーのマカロン3個ずつお土産に頂く。ちなみにそれは、宿泊する「アマン東京」に戻って、ウェルカム・アメニティの「スミス&フック カベルネ・ソーヴィニョン セントラル・コースト 2013年」と共に味わった。
さてさて今年も開催されると言う「コレクション・ベージュ 2016」。選び抜いた食材を特別のコースに仕立てる料理のオートクチュールだ。第一弾は4月20~24日、「リヴィエラの夢」と題し、モナコ「ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス・ア・オテル・ド・パリ」ドミニク・ロリー(Dominique Lory)シェフを迎える。
我が家は数年前の同企画(ランデブー)で、モナコ「ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス」25周年に合わせたフランク・セルッティ(Franck Cerutti)シェフ来日時に伺った。今回も「ル・ルイ・キャーンズ」でこの時季に出している料理を、日本の食材もまじえてロリーシェフと小島シェフが再現。
ワイン・パン・オリーブオイルに至るまで「ル・ルイ・キャーンズ」の物を用意するとの事。ロリーシェフはパリ「スプーン」から「ピエール・ガニエール」を経て、サントロペ「スプーン」へ。その後モナコ「ル・ルイ・キャーンズ」からパリ「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」に入り、再び「ル・ルイ・キャーンズ」へ。
2013年にシェフ就任で今正に旬のシェフと言える。そう言えばつい先日、ニューヨーク「シェフズクラブ」でデュカスシェフとロリーシェフが、エアーフランスのイベントでフェアを行っていた。
さて今夜の「ベージュ東京」について話を戻そう。素材にこだわると標榜するレストランは多いが、その素材の特徴や美味しさが、過不足なく客側に伝わる店は少なかったりする。余りにシンプルすぎるとビストロ料理になるし、複雑に旨みを昇華させるフレンチの良さがなくなる。
そんな中小島シェフの料理は、どの素材を食べたか明らかな印象を残しつつ、フレンチらしい旨みも重なる。そのバランスが素晴らしいなと改めて感じたディナーであった。どうしても「シャネル」ブランドのイメージが強すぎるレストランであるが、美食とワインのレベルを改めて感じた。
若く緊張感もありつつ、エレガントなサービスのスタッフ陣も総じて良く、「また次の季節も訪れたくなるなぁ♪」と名残惜しそうな妻共々楽しい時間が過ごせた夜だった。